土・地形・歴史を見る
2019年1月27日佐賀新聞「ろんだん佐賀」寄稿
皆さんはご自身の地域の魅力をどの位語れるだろうか。私たちの町にはなんの魅力もない。東京と地域を行き来するようになって13年、なんどとなく、この言葉を聞いた。しかし、どのような地域にでも必ず魅力はある。そこで「ろんだん佐賀」では数回にわけて「地域の魅力」について論じてみたい。
筆者の本業は、企業や行政からの依頼で、地域の魅力を見つけて戦略に合わせたコンセプト立案をすることだ。ハードやソフトの企画を提案し、導入まで担う場合もあり、その時は都市と地域の間にある様々な距離感を調整することもある。
コンセプトの基になる地域魅力だが、これは「土」と「地形」と「歴史」で説明ができる、というのが筆者の考えだ。特に重要なのは「土」である。土は、その土質にあった「産物」を実らせて、地域経済を成立されるからだ。これは農産物だけではなく鉱物も含まれる。他に、人と物の動きを左右する「地形」と文化に影響を与える政策などを「歴史」からみれば本物の魅力が見えてくる。
「土」が地域魅力の源だということに気がついたのは、スペイン700キロを歩いた時のことだった。40日間、ひたすら西に向かって歩き、夜になれば地域のスペイン料理とワインを飲んで眠りにつく。あるデータによれば、人の視線の約6割が地面と言われている。つまり、筆者は当時、スペインの大地ばかりを見ていたことになる。
スタート地点はピレネー山脈の麓にある砂漠地帯からだった。砂漠といっても乾燥に強い葡萄やオリーブはまばらに生えている。水分が少ないため、そこで採れる葡萄は小粒で果汁が凝縮されている。ゆえに、その葡萄から造られるワインはとても濃密なのだ。その他の農産物は無いに等しく、畜産は少しの草でも生きられる羊くらいだ。レストランでは、靴についた土ほこりを叩いてから入店し、濃厚な赤ワインとラムチョップを堪能した。
さらに数十キロ歩くと小川が出現した。小川はどんどん幅が広がり、やがて船が行き来する水路になり、自分が都市部に入ったことがわかった。かつて、人間は陸路ではなく水路を使って物資を輸送した。インダス文明などの成立ちを鑑みると川と都市との密接な関係性についてはご理解いただけるだろう。ここではスペイン各地の食材を使った料理を食べることができた。
ゴール地点は、海が近くて雨が多いガリシア地域。ぬかるみで靴は泥だらけになり、そのままレストランに入るのがためらわれた。とはいえ、この地域の食事は最高だった。平地には青々とした牧草が茂り、それを乳牛が食む。水分量の多い葡萄から造られるワインは酸味があって爽やか。最後の1週間はチーズとワインそれに海産物の食事を満喫した。
紙幅の関係で充分な説明ではないが、土地の魅力を生み出す源は「土」だということがご理解いただけるかと思う。また、羊料理に合うのは濃厚な赤ワイン、チーズや海産物には酸味のあるワインが合う、と言われている理由も、同じ地域(土)から生まれた産物だから、ということでご納得いただけるだろう。次回は佐賀県の土ついて論じてみたい。
