地域ブランディングは「認知」から
2019年6月2日佐賀新聞「ろんだん佐賀」寄稿
地域観光はインバウンドだけに頼らずに、自力で戦略を講じられる日本人をターゲットにして彼らに何度も訪れてもらう施策を打つべきだ。前回(4月20日)の記事にはそう書いたので、今回は、それを踏まえて、地域ブランディングには「認知」と「魅力」が重要であることを書いてみたい。
モノが売れない最大の理由は「存在を知らない」ことなので、まずは名前を知ってもらわねばならない。そのきっかけになるのが魅力だ。
筆者は前職のリゾート企業時代、ブランド認知をあげる広報業務を担っていた。その企業では、全施設が季節と土地柄にあった「魅力」を年に数回打ち出し、広報はそれをメディアに記事として取り上げてもらい、広く「認知度」をあげるという取組みを行っていた。これは相当な労力がかかるが、10年前は、誰も知らなかった某企業を今や知らない人はいない。この状況をみると魅力と認知の効果は期待できる。
話を嬉野市吉田地区に戻そう。吉田で行った「トレジャーハンティング」(以降トレハン)はとても好調だったが「次の手を打とう」とトレハンをやろうと言い出した張本人である窯元が言った。メディアは目新しさがなくなれば取材しない。そうなるとせっかく芽生えた吉田の認知がゼロに戻る。そう危惧したのだ。
その窯元による新企画は、磁器の規格外品を販売するというものだった。規格外品は正規ルートで売ることができず、お金を払って産業廃棄物扱いにするか、陶器市で投げ売りするなどの、お荷物的存在である。
規格外品を「魅力的」にするためにはどうしたら良いだろう。ふと思い出したのは、その窯元が語った言葉だった。彼曰く、職人にとって焼き物は「我が子」のような存在であり、例えキズがあっても、それは “えくぼやほくろ”のようなもので、子どもであることに変わりはなく、愛しい存在だ。そう語った。これには筆者も感動したし、他の人にも共感を得られると直感した。早速、組合で会議を行い、昨年の1月に5軒の“えくぼとほくろ”ショップを集落内にオープンした。
オープンに合わせて県内メディアが取材し、記事にしてくれたおかげで、翌日から多くの人たちが吉田を訪れるようになった。だが、チーム吉田はすぐに次の手を打ったのだ。4月には窯元の工場内にフラワーアレンジメントを飾る「花巡り」のイベントを開催。10月には集落と工場内をキャンドルでライトアップした「吉田皿屋ひかりぼし」。そして今年の1月は窯元組合会館を窯元らの手でリノベーションをし、焼き物体験や嬉野茶がテイクアウトできるカフェコーナー(平日のみ営業)を設置したのだ。
こうして3年前までは誰も歩いていない集落に今や、月平均600人(約1割がインバウンス)が訪れるようになり、今年のGWは過去最高の売上げを叩き出した。旅行会社は“えくぼとほくろ”を巡るツアーを造成し、月に2、3回催行される人気ぶり。外部の人間がいたとはいえ、ここまでを彼らはほぼ自力でやったのだ。
魅力と認知の効果はご理解いただけただろうか。想像できない方は吉田に足を運ぶか「肥前吉田焼」でインターネットを検索してみると一目瞭然かと思われる。
