価値観を理解し、風習を共有
2019年8月25日佐賀新聞「ろんだん佐賀」寄稿
お盆。佐賀の皆さんがよくご存知のこの風習は、都市部では、さほどに、その作法は知られていない。
「風習」は略語で、正しくは「風俗習慣」。「慣習」の意味合いに近い。習慣を個人の行動様式に対して使うのに、慣習は集団の行動様式に使う。風習は祭りや伝統行事など、地域共同体の歴史的なイベントを指すので、お盆は風習に属する。
日本の風習に疎い筆者が、お盆に興味をもったのは今から4年前。有田焼の仕事をしている時にある老舗の奥様から「その日は仕事がお盆なので仕事ができません。」と言われた時だ。てっきりどこかに遊びに行くのかと思い「どこに行くのですか?」と聞いてみたら、逆に驚かれて「ご先祖様が帰って来られるのに家を空けるなんてどんでもない。お迎えする準備やお供えやお参りがあるので仕事ができないのです。」と答えてくれた。
筆者にとって経済活動より優先する行事があるということがとても新鮮だった。しかし、似たような理由で行事を優先する地域があるのを思い出した。八重山諸島にある竹富島だ。
竹富島は住民364人(2019年現在)の小さな離島。前職の広報時代に、この島にリゾートを開業することになりテレビの密着取材が入った。テレビクルーに同行し、3週間ほど島に滞在した、ある夜、島で文化活動をしている若い人から「話がある」と呼び出しをうけた。当時、島にはリゾート反対勢力があり、若干のピリピリモードがあった。この人は賛成派だが、なにか怒られるようなことでもあったのかとビクビクしながら、話を聞くことになった。
結論からいえば、その人は私の価値観を聞きに来たのだった。彼の質問は2つ。一つは「暗闇をどう思うか?」もう一つは「神様はいると思うか?」というものだった。私なりの考えを伝えたところ、腹落ちしてもらったようで、最後に次のようなお願いをされた。
「これから、あなたは自社の広報だけではなく、この島の広報もしなければならない。わからないことがあればなんでも聞いてほしい。そして、一緒に島のために頑張りましょう。」と。
島には全ての島民が参加する祭りがあり、仕事よりも学業よりも祭りを優先するので、毎年10日間ほどは島の経済はストップする。他にも都会では考えられない風習がいくつもあったが、その根底には、私に投げかけられた問いに対する答えがあるのだと悟った。
地域で仕事をしたことがある人は経験があると思うが、自分のそれとは異なる価値観に対峙する時には、見直すべきことと尊重すべきことの見極めをしなければならない。神仏に関わることは尊重すべきことの一つだろう。地域の価値観を理解するのは体験するのが一番だが、残念ながら、その時期に訪れることがなく、祭りもお盆も体験には至らなかった。
個人的なことで恐縮だが、今年の初めに夫がなくなった。8月に入って、ふと、窯元の奥様と神様の存在を信じているといった島民の方の顔を思い出し、作法に則ったお盆をやってみることにした。
白い提灯を飾ったり、期間中ずっと精進料理を作ったり、お客様の相手をしたりで、なかなか忙しい。しかし、日本の風土的な習わしや、宗教という概念を超えた先祖や神仏の捉え方をじっくりと考えることができ、有田や竹富島の皆さんと共に語れる知見を得たような気がした。
もし、皆さんがよそ者を迎える時には、ぜひ、色々な風習を共有していただけばと思う。残暑厳しい日が続きますが、どうか、みなさま、お身体ご自愛ください。
