自分の審美眼を信じる
2019年11月17日佐賀新聞「ろんだん佐賀」寄稿
本欄への寄稿も今回が最後になった。最終回は大学や外部で講師をする時に、仕事やキャリアに関する質問が多いことを鑑み、仕事に悩んでいる方や就職で苦戦している方と親御さんの少しでも参考になればと思い、筆者なりの考えをお伝えしたい。
筆者は今から13年前に「あなたを雇う会社はないと思います。」と優良企業A社の人事総務の女性役員から言われたことがある。
キャリア転機のきっかけは、高卒で16年間勤務した外資系IT企業で仕事も私事も上手く行かない局面に見舞われた時だ。その時に、今こそ学ぶ時が来た、と思い、突然ガリ勉女に変身。学費をかき集めて、大学に入学した。大学では最大で4つのゼミを掛け持ちし、夜中まで研究室にいた。
卒業が近い4年生の7月。将来は日本のものづくりに貢献しよう、と思っていたが、この年齢で就職している前例が当時はまだなく、悶々としたまま国際NGOでインターンをしていた。
ある日、NGOの理事長が「A社に渉外に行くので、同行しないか?」と誘われ、人事総務の役員の女性との打合わせに同席した。話が一段落した時に「この会社に入るためにはどうしたらいいか?」と聞いてみた。その答えが前述のものだ。彼女の本意は、日本企業は中途入社でキャリア志向がある女性を怖くて雇えない、採用されてもやりたいことができるのは退職間際だと言うことだった。
トボトボとA社を後にする筆者に向かって理事長は「本当にA社に入りたいなら、経営者に手紙をかいたらどうか?」と言った。「その手紙が経営者に届くかどうかは内容次第だが、あの会社なら届くだろう、届かないなら、そんな会社に行く必要はない。」と言った。それもそうだ。扉がない入り口なら、自分で作ればいい。筆者は早速机に向かった。
ところがだ、なんと書くことがないのである。つまり、その会社のことも経営者もことも通り一辺倒のことしか知らず、借りてきた文言を並べることしかできなかったのだ。考えを改めてゼロから企業を探し始めた時、ある企業が目に止まった。星野リゾートだ。当時、某番組で紹介されたこともあり、興味を持ったものの、番組で語られていること全てが本当かどうかはわからない。そこで、自分の目で確かめるために大学を休み、車で軽井沢の施設まで行きリサーチした。ついでに八ヶ岳にある施設まで車を飛ばし追加リサーチ。分かったのは、テレビで言われていたことは、どうも本当らしい、ということ。そのうえで自分ができることは何かと考えて、A4用紙1枚にまとめた。そして、その経営者が登壇するセミナーに申込み、会場をでた所を捕まえてそれを渡した。そんなこんなで就職することができた。入社したものの途中で心底イヤになったこともあったが8年間務められたのは、あの時の自分の眼を信じたからだ。
イヤでも我慢しろ、ということではない。進路はいつでも変更可能だし、足りないものはいつでも学べる。小さい扉に大人数が突進している図をイメージして、人とは違うやり方で扉を開ける方法を考えるのも重要だ。でも、そうして職に就いてもイヤなことはあるだろう。その時は、一旦、自分の審美眼を信じてみることだと思う。筆者は、そうして有田と嬉野で仕事をしてきた。
さて、いよいよ最後の段落だ。第二の故郷の佐賀の皆さんに一方的ではあるが、こうして発信できたのは喜びであった。声がけしてくれた佐賀新聞社の方、拙い文章を読んでくださった読者の皆様に深くお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
