私は私が選んだものでできている。
今から6年前、山岳地帯、砂漠地帯などがある異国の辺境700キロを50日間分の生活用具一式を背負って歩いたことがある。一歩間違えれば、死に至ることもあると言われていたので、歩行訓練を行い、最高の道具を揃えて挑んだ。
万全の備えのおかげもあり怪我もなく、いよいよゴールまであと2日、という地点にきた。
その日は朝から土砂降り。ふと足元をみたら、ブーツから泡がでていることに気がついた。
ブーツが壊れた・・。
思わず目を見開いて「履くものがなければ、もう歩けない」とパニックになった次の瞬間、怒涛のように様々な感情が押し寄せてきて、涙がこぼれた。
このブーツは700キロもの道を超えて私をここまで連れてきてくれた。穴が空いてしまったが、あと2日なら耐えてくれるだろう。このブーツを選んで良かった、とブーツを作ってくれた人に心底、感謝した。
その次の瞬間、感謝すべきはそれだけではないことに気がついた。
毎朝、身支度をしながら聴いていたあの曲。疲れた体を癒してくれる香りの良いオイル。元同僚が応援メッセージを書き込んでくれたガイドブック。やったことがないSNSを駆使して届く、母からのメッセージ。リュックにつけた日本の国旗は背筋をピンとさせてくれたりもした。
ああ、私は色々なものでできている。
その多くは私が選んだものだ。
なにかに呼ばれた気がして旅にでたが、そういったものたちが手を引き、背中を押して、私をここに連れてきてくれたのだ。
そう思ったら、なんだか泣けてきて、雨と涙でぐしょぐしょになりながら歩いた。
人生は旅そのものだ。
何を持って行くかはとても重要な判断だが、本当に必要なものほど見えにくい。でも、自分らしくありたい、という願いがあれば、天啓が降りてくる。それを受け止められる心の余白を残しておくのもまた備えなのだと思った。
※「民藝四十年」を読んでインスパイアーされて書いたエッセイ
※アイキャッチの写真はスペイン700キロを共に経験したリュックサック