なにか新しいことをやる時はトテモドキドキするものです。それが伝統を重んじる土地で、しかも、人様のビジネスである場合は特にドキドキ感は一層ハイパーになるのです。
先日、始めた「えくぼとほくろ」という企画がそうでした。でも、最終的に「やろう」と思えたのは「市場の価値観ってどうなの?」と思ったことにありました。
「えくぼとほくろ」とは:
モノつくりにおいては、必ず「規格外品」が生まれます。全ての業界を知っている訳ではありませんが、磁器は比較的、多いのではないかと思われます。
市場には、色々な観点で「価値基準」が設けられており、それを満たしてないものは「規格外品」として扱われ「市場に向けた流通」に乗ることが出来ません。
肥前吉田焼という佐賀県嬉野市にある焼き物の産地では、その規格外品を愛情を込めて「えくぼとほくろ」と名付けました。「えくぼ」とは釉薬(上薬)のムラ、「ほくろ」とは絵の具や鉄粉などによる「黒点」のこと。他の規格外品もふくめ、それらを窯元6社で堂々と売りましょう!というプロジェクトです。
ちなみに「えくぼ」はコレ。
ん?
なに?
どこが問題なの?
わかりませんよね。
では、アップで、どうぞ!
虫眼鏡がいります。
では、こちらはどうでしょう。
「ほくろ」
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わかりました?
思わず、指でゴシゴシして、ホコリではないことを確認してしまうほどの小さなもの。もはや、間違い探しの域です。
「えくぼとほくろ」をやりたいと言ったのは”自称”吉田のヨカ男。彼は肥前吉田焼という佐賀県でも知る人が少ない焼き物の産地にいるトテモ売れっ子の若手窯元です。「えくぼとほくろ」の名付け親でもあります。
実際、彼は見た目も中身も「ヨカ男」です。彼との出会いは今から2年前。
私は、予定されていた任期が1年ほど早まった時、たまたま眼の前にいた彼に「実は、今月でこの仕事終わりなんです」と雑談混じりに話をしました。すると、彼は、ソッコーで「じゃ、僕が雇います!」私も私で「はい、お願いします!」とソッコーで答えた記憶がおぼろげにあります。
閑話休題。
言いたかったのは、ヨカ男は、漢だ、ということです。
ともかくも、そのヨカ男が「やりたい、やりたい」と言っていたのが「えくぼとほくろ」でした。でも、私はゼーンゼンやりたくなかった。なので3ヶ月くらい放置していました。
やりたくない理由は2つ。
1)B品を世に出すこと。
2)安売りをすること。
この2つをすると、ブランドを毀損してしまう、と思ったからです。ですが、ヨカ男の一言で、私の思考が回り始めました。
それはお国関係のお偉いさん達を案内している時のこと。ヨカ男はいいました。
僕たちは、環境破壊をしています。
ハ?ナニ ヲ イッテオルノダ?→私の心の声。
焼き物は、地球を穴だらけにして石や土を掘り出して粘土にし、それを大量の二酸化炭素を排出しながら焼いてつくります。僕ら、窯元は、地球環境を破壊している責任を全うするために、作った商品をなんとかして「世間の皆様に使ってもらえるモノ」にする義務があると思っています。
なんと・・・
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私の脳みそをグルグルと回転させた、別シーンでの、セリフがもう一つ。
商品が完璧にできたかどうかは、窯から出してみるまでは、わからないんです。職人さんは「ぺっぴんさん」をイメージして最後の最後まで手を抜かず、丁寧に作業をしています。
でも、窯をあけてみたら「えくぼ」があった・・ということがあるのです。
「窯元にとって自分が手がけたモノは自分の子供なんです。本当の子供だったら、えくぼがあってもカワイイじゃないですか。ぼくらも同じなんですよ。えくぼとほくろがあっても、かわいい子供なんです」「でも、それらは、検品ではじかれてしまうのです」
この話を後ろのほうで聞いていた私は思いました。
・・・オモロイ。
ほとんどの人は、焼き物が10以上の工程を手間ひまかけて作られていることを知りません。
ほとんどの人は、職人さんが息を詰めながら、一つ一つとても丁寧に商品を作っている場面を見たことがありません。
これを見せる。
どんなに丁寧につくっているかを、見てもらうのです。
窯元ってすごい!焼き物って面白い!に注力するのです。売れる売れないは、それがよければツイテくるハズだと。
その後で、「えくぼとほくろ」がある商品を見たら、もう以前のアナタではいられない。焼き物が特別なものに見えてくるはずだと思いました。私がそうだったから。
とはいえ、価格に関しては、定価でいくか/割引価格にするか迷いました。最終的には、各窯元さんに任せましたが、全体ルールとしては、割引価格はアリにしました。
割引価格(定価の半額程度)にしたのは、人は、キズがナイ商品とキズがアル商品を見比べた時、同じ価格なら、キズのナイ商品を選ぶからです。日本人は、積まれた本の一番上にある本は買わず、下の方から買うんです。一度でも読めば表紙はキズつくのにね。服とか生鮮食品とかもそう。
「キズがあるから安い」というロジックはつまらない。
「えくぼとほくろ」がある商品は、流通にのせない分「経費」はかかりません。だから、安くできるのです。と言い切る。えくぼとほくろが「悪い(粗悪品)」から「安い」のではナイのです。
話はここから2ヶ月前に遡ります。
肥前吉田焼は、ブランドとかコンセプトがまだなかったので、窯元全員でブレストをしたことがありました。会議室でマジメ・ブレストをし、
窯元さんの家で美味しい食事+酒を楽しみながら、膝を付き合わせてフリーダムな感じでもやりました。
で、、完成したのは「暮らしにちょっとワクワクを」というコンセプト。これ、いいでしょ?知っている人は知っていると思いますが、吉田の雰囲気にぴったりなんです。
あえて「肥前吉田焼」いう産地の名前も「焼き物」も「器」も入れない。段々畑があり、ここにしかない風情が残っている。この産地には、焼き物だけではない魅力があります。
「ワクワク感のある産地」にを目指すのならアリだ。
で、極めつけのひとこと。
んー、でもですよ?この産地には、まだ壊れたら困るほどのブランドは出来てないですからねぇ。
笑
こうして、ようやく私の重い腰が動いたわけです。
結果、多くのメディアに注目され、今では、この産地に人が訪れるようになりました。
●NHKのイケメンアナウンサー自らが取材にきてくれました。利根川さん、ありがとー!
●サガテレビの人気番組「わらしべ長者の旅」では2週間連続で吉田地区がレポートという快挙。メガモッツサイコー!
●佐賀のほぼ全ての新聞各社はどこも大きく取り上げてくれてました!見てください。このタイトル「愛の格安」って。解っていただけて嬉しいです(*⁰▿⁰*)。ある窯元さんは記事を額にいれて飾っていますよ。
このメディア効果もあり、今は、毎日、人が訪れるようになりました。職人さんの手仕事を目を丸くして眺め、えくぼとほくろの商品を手にとって
「え?こんな小さい点がダメなの!?」「あんなに丁寧に仕事をしていても、”えくぼ”ってできちゃうんだね」
などと言ってくださり、誰も値切らずに、つけた価格のまま、嬉しそうにご購入されています。ちなみ陶器市では、悲しくなるような値切られ方をされる時もあります。
「アナタ」の価値観に響いてくれた!だから、付けた価格を評価(納得)して買ってくれた。
ぜひ、あなたの価値観で見てもらえると嬉しいです。「えくぼとほくろ」の詳細についてはこちらをご覧ください。吉田焼のブランディングは始まったばかりですが、期待大です。
最後に、もう一つ重要なことを記しておきます。もともと「規格外品」は窯元さんにとってコストな(お金がかかる)存在でしかありませんでした。丹精込めて作った焼き物には社会で役に立って欲しいという想いに反して、売るに売れず、投げ売りをするか、産業廃棄物としてお金を払って捨てるしかない。それが、今は窯元の利益になっているのです。これを長年考えていたのが”自称”吉田のヨカ男こと、224 Pocelainの辻諭さんです
私は市場原理が全てだと思ってます。ですが、市場(市場ってダレ?)決めた『価値基準』は果たしてどうなんだろう、と自分の固定概念を一度崩して、自らに問い正す良い機会でした。ありがとね、吉田のヨカ男さん(^^)